買い手が候補を集める方法が変わりつつある。検索して10件のリンクを開くかわりに、AIに尋ねて5社の名前を出させる。この違いは小さく見えて、実は選ばれ方の構造をひとつ変えている。
検索結果は順位である。1位でなくても、10位のリンクはそこに存在している。買い手がスクロールすれば見つかる。しかしAIの回答は候補である。挙がらなかった会社は、順位が低いのではなく、その会話の中に存在しない。
私たちが観測していること
私たちの観測室のひとつは、生成AIに次のような質問をして、その回答を逐語で記録している。
- 「◯◯に強い会社は?」── 候補に挙がるか、何番目か
- 「(社名)はどんな会社ですか」── 説明できるか、何と説明するか
- 「◯◯を頼むならどこ?」── 買い手にどんな観点を勧めるか
- 「A社とB社を比較して」── 相対的にどう位置づけられるか
この室にはひとつだけ、他の観測室にない規律がある。AIの回答は記録するが、正誤は判定しない。AIが御社を誤って説明していても、私たちはそれを訂正せず「そう説明された」と記録する。誤認が起きているという事実そのものが観測の中身だからである。
順位より重要な観測がある
この観測をしていて、最も価値があるのは言及率でも順位でもないことが分かってきた。AIが市場をどう分類したか、である。
たとえば、ある市場についてAIに尋ねると、事業者を3つか4つの類型に整理して説明してくることがある。総合サプライヤー系、専業系、低価格系、といった具合に。このとき観測すべきは、自社がその類型のどれに入っているかではない。
自社の組み合わせが、そのどの類型にも収まっていない ── これが最も重要な観測になる。
AIの中に、自社が入るべき棚がまだ用意されていない。この状態は、言及率という数字では決して現れない。しかし対処の方向はここから明確に導かれる。棚に入れてもらう努力をするか、棚の説明ごと自分で供給するかである。
AIが勧める観点と、サイトが答えている項目
もうひとつ、実務的に効く観測がある。AIに「この種のサービスを選ぶときの観点は?」と尋ねると、たいてい4つか5つの判断軸を提示してくる。費用構造、契約条件、対応範囲、実績、といったものだ。
その5つと、自社サイトが実際に答えている項目を照合する。すると、答えているのは1つか2つだけ、ということがしばしば起きる。AIを介して比較検討される場面において、何を書き足すべきかが、この照合からそのまま出てくる。
この観測の限界を先に書いておく
誠実であるために、この室の限界も明記しておきたい。観測は特定のモデル・特定の時点のものであり、モデルが更新されれば結果は変わる。同じ質問でも回答は毎回揺れるため、単発の観測から傾向を断定することはできない。私たちは学習済みの知識だけで答えさせているので、これはWeb検索を伴うAI回答の観測でもない。
そして最も大切なこと。AIが知らないことは、事業の評価ではない。52年続いている優れた会社を、AIが知らないことは普通にある。これはAI上の可視性という一側面の観測にすぎない。
それでも、なぜ観測するのか
この観測が持つ価値は、順位を上げる施策の材料になることではない。自社が市場の中でどう名指されているか、あるいは名指す言葉がまだ無いのかを、外側から見せてくれることにある。
自社の紹介文は、たいてい内側から書かれている。何を大事にしてきたか、何にこだわっているか。それは正しく、そして市場の中でどう置かれるかとは別の話である。AIの回答は、その別の話のほうを、驚くほど素っ気なく見せてくれる。
自分の言葉と、外から見た自分の位置がずれていることを知る。それは決して気持ちのよい観測ではないが、次にどこへ進むかを決めるための材料としては、かなり質が良い。