市場の現在地

資料室 / 論考

PAPER 02

AIは御社を知らない

生成AI時代の「想起」について

AIに「◯◯に強い会社は?」と尋ねる買い手が増えている。そこで挙がらないことは、検索順位が低いこととは別種の問題である。

2026-08 / 約6

買い手が候補を集める方法が変わりつつある。検索して10件のリンクを開くかわりに、AIに尋ねて5社の名前を出させる。この違いは小さく見えて、実は選ばれ方の構造をひとつ変えている。

検索結果は順位である。1位でなくても、10位のリンクはそこに存在している。買い手がスクロールすれば見つかる。しかしAIの回答は候補である。挙がらなかった会社は、順位が低いのではなく、その会話の中に存在しない。

私たちが観測していること

私たちの観測室のひとつは、生成AIに次のような質問をして、その回答を逐語で記録している。

この室にはひとつだけ、他の観測室にない規律がある。AIの回答は記録するが、正誤は判定しない。AIが御社を誤って説明していても、私たちはそれを訂正せず「そう説明された」と記録する。誤認が起きているという事実そのものが観測の中身だからである。

順位より重要な観測がある

この観測をしていて、最も価値があるのは言及率でも順位でもないことが分かってきた。AIが市場をどう分類したか、である。

たとえば、ある市場についてAIに尋ねると、事業者を3つか4つの類型に整理して説明してくることがある。総合サプライヤー系、専業系、低価格系、といった具合に。このとき観測すべきは、自社がその類型のどれに入っているかではない。

自社の組み合わせが、そのどの類型にも収まっていない ── これが最も重要な観測になる。

AIの中に、自社が入るべき棚がまだ用意されていない。この状態は、言及率という数字では決して現れない。しかし対処の方向はここから明確に導かれる。棚に入れてもらう努力をするか、棚の説明ごと自分で供給するかである。

AIが勧める観点と、サイトが答えている項目

もうひとつ、実務的に効く観測がある。AIに「この種のサービスを選ぶときの観点は?」と尋ねると、たいてい4つか5つの判断軸を提示してくる。費用構造、契約条件、対応範囲、実績、といったものだ。

その5つと、自社サイトが実際に答えている項目を照合する。すると、答えているのは1つか2つだけ、ということがしばしば起きる。AIを介して比較検討される場面において、何を書き足すべきかが、この照合からそのまま出てくる。

この観測の限界を先に書いておく

誠実であるために、この室の限界も明記しておきたい。観測は特定のモデル・特定の時点のものであり、モデルが更新されれば結果は変わる。同じ質問でも回答は毎回揺れるため、単発の観測から傾向を断定することはできない。私たちは学習済みの知識だけで答えさせているので、これはWeb検索を伴うAI回答の観測でもない。

そして最も大切なこと。AIが知らないことは、事業の評価ではない。52年続いている優れた会社を、AIが知らないことは普通にある。これはAI上の可視性という一側面の観測にすぎない。

それでも、なぜ観測するのか

この観測が持つ価値は、順位を上げる施策の材料になることではない。自社が市場の中でどう名指されているか、あるいは名指す言葉がまだ無いのかを、外側から見せてくれることにある。

自社の紹介文は、たいてい内側から書かれている。何を大事にしてきたか、何にこだわっているか。それは正しく、そして市場の中でどう置かれるかとは別の話である。AIの回答は、その別の話のほうを、驚くほど素っ気なく見せてくれる。

自分の言葉と、外から見た自分の位置がずれていることを知る。それは決して気持ちのよい観測ではないが、次にどこへ進むかを決めるための材料としては、かなり質が良い。

── 株式会社スパークル

市場の現在地は、株式会社スパークルが運営する市場観測機関です。ここで述べた観測のしかたは、観測室で実際に試せます。

ほかの論考