市場の現在地

資料室 / 論考

PAPER 03

カテゴリ言語という空白

買い手が探す言葉と、売り手が名乗る言葉のずれについて

同じものを売りながら、各社はまったく違う名前で自分を呼んでいる。その分裂の中に、誰も立っていない棚がある。説明が要る商材の市場ほど、その棚は広い。

2026-08 / 約7

商品ページには、必ずどこかに「自分を何と呼んでいるか」が書かれている。◯◯ツール、◯◯システム、◯◯サービス、◯◯プラットフォーム。私たちはこれをカテゴリ言語と呼び、商品の観測では独立した視点として必ず記録している。会社の紹介文よりも、この一語のほうが、その会社が市場のどの棚に自分を置いているかを正確に語るからである。

問題は、その棚の名前を買い手が知らないことがある、という点にある。

買い手は出来事で探し、売り手は方式で名乗る

説明しないと売れない商材の市場で、この現象は最も大きくなる。食品工場で異物のクレームが起きたとき、担当者が最初に検索する言葉は「金属検出機」ではない。「異物混入 対策」「異物クレーム 再発防止」である。まだ、どの方式で解決するかを知らないからだ。一方で売り手のページは「金属検出機」「X線検査機」「AI異物検査プラットフォーム」と、方式で名乗っている。

買い手は出来事の言葉を持ち、売り手は方式の言葉を持つ。両者の間に、誰も立っていない。標本004では、4商品の自己分類が4通りに割れ、出来事の言葉で名乗る商品が1つもないことが観測された。これはその市場に固有の失敗ではない。説明が要る商材の市場では、ほぼ必ず観測される構図である。

なぜ売り手は方式で名乗るのか

悪意でも怠慢でもない。売り手にとって方式は、自社の技術の正確な名前であり、同業者との会話で通じる言葉であり、そして長年そう呼んできた言葉だからである。社内では誰も「異物クレーム対策機」とは呼ばない。カタログにも、展示会のブースにも、方式の名前が書かれる。Webサイトは、その延長で作られる。

もうひとつの理由は、方式で名乗るほうが正確だからだ。「異物混入対策」には、検出機以外の答えもある。工程の見直し、包材の変更、教育。売り手は嘘をつきたくないので、自分が確実に提供できるものの名前を書く。誠実さが、買い手の言葉から遠ざける。

ずれは、検索と AI の両方で起きる

このずれは検索結果の上で起きるだけではない。生成AIは、メーカーサイトが名乗っている言葉でカテゴリを学習する。「異物混入対策に強いメーカーは」と聞かれたAIは、方式でしか名乗っていない会社を挙げにくい。標本003で観測したように、AIの中に「入るべき棚」が存在しない状態が生まれる。棚の名前を作れていない市場では、想起の競争が始まる前に、想起の対象が決まっていない。

空白は、競合が言っていないことではない。買い手が探しているのに、誰も名乗っていない棚のことである。

観測のしかた ── 「カテゴリ言語」の行を縦に読む

私たちの観測表では、各商品のカテゴリ言語が一つの行に並ぶ。その行を縦に読むと、市場が自分をどう呼んでいるかの分布が見える。全社が同じ言葉なら、その棚は混んでいる。全社が違う言葉なら、市場はまだ棚の名前を決めていない。そして、どの言葉も買い手の出来事に触れていなければ、そこに空白がある。

空白を取りにいく一手は、たいてい小さい。方式のページを消す必要はない。出来事の言葉を見出しに置いたページを、一枚立てるだけでよい。「異物クレームを二度と出さないための検出機」。方式は、その下に書けばいい。

標本002のオフィスコーヒー市場でも、同じ構図が観測されている。4商品は定期配送・オフィスサービス・月額プラン・体験と名乗り、「来客に出す一杯」という買い手側の文脈で名乗る商品はなかった。平凡な市場でも、説明が要る市場でも、空白の形は同じである。違うのは、ずれの大きさだけだ。

私たちがカテゴリ言語を独立した視点として観測するのは、この行が、市場の中で最も見落とされていて、最も安く取れる空白を示すことが多いからである。

── 株式会社スパークル

市場の現在地は、株式会社スパークルが運営する市場観測機関です。ここで述べた観測のしかたは、観測室で実際に試せます。

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